胸の一番奥にひっそりと残る記憶

5月16日。BWMLから3日。まだあの興奮覚めやらずだ。焼け付くような胸の疼きが心に残っている。

俺の人生を変えたのがマリウスなら、俺に演劇の魅力と深さを教えてくれたのがクリスだったような気がする。

22歳の時に初めて聴いたミュージカルが『ミス・サイゴン』で、名曲ばかりのその楽曲の中にあって俺が最も感動したのがクリスの歌う「Why God Why」だった。サイモン・ボウマン(ご存知初代クリスで、マリウスで、後にヴァルジャンもやる名俳優。ロンドンでサイゴンを見た時にもちろんサイモンがクリスで、なんと楽屋ですれ違ったんだよ!)の声を何百回も聴いたなあ。

奇跡のように、1992年にGIとして『ミス・サイゴン』に出演。毎日が学校だったな。校長先生は市村さんかな~。もし再演があったら絶対クリスとしてオーディションを受けたいと夢みていたのだが、いつになってもそんな話はなく、再演が決まったのは時代が一巡りした12年後だった。

2004年。念願だったクリスとして帝劇に立った。念ずれば叶うって、神様ありがとうって思った。

愛するキムを守れなかった自分の愚かさと向き合う毎日。キムからは「ヒドい。人でなしよ!」くらいの眼差しを受け、凹みながらも幸せな毎日だったなあ。なんて自虐的(笑)。

ストーリー的にはかなり突飛な展開だったり、外人史観だったりはあるかもしれないけど、俺は綿密にクリスの性格と空白の3年を分析したので、今でも彼の苦悩や現実は手に取るようにわかる。クリスがいかに普通の男で、いかに繊細で、いかに戦争が人から正気を奪うのか….。

役者は、実際に体験したことがないことでも真実以上にリアルに演じることができる。それが演劇の一番尊いことだということを教えてもらった。ただそれは難しいし、それ相応の心の痛みや代償は伴うけどね。

胸の一番奥にひっそりと残る記憶….クリスを生きた大切な記憶。

ドッグタッグのことを書いて下さった方がいたけど、よく気付いたね~。ありがとう。アメリカ兵は、名前や宗教や血液型が彫られたタッグを首から下げているんだって。実際にサイゴン出演者はこういうのを支給されたんだよ。ちゃんと名前が彫ってある。リアルでしょ?

幸二郎も出るし、今年はサイゴンのニューヴァージョン絶対見に行くぞ!

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25 thoughts on “胸の一番奥にひっそりと残る記憶

  1. まゆりーぬ

    >Zocchaさま
    あ〜、すみません。間違えました。
    蝶々夫人ですね。蝶々。蝶々。
    う〜ん。どちらの作品にも、悲劇性を高めるに盛り込まれたんじゃないですかねぇ。
    って、こんな言い方したらミもフタもないですか(苦笑)?

  2. 2日ぶりのコメントとなってしまいました。
    こんばんは。
    貴重なクリスのお話、ありがとうございました。
    お写真を一目見て悶絶していたのですが、もしかしてBWMLはこの格好で歌われたのですか?
    ドッグタッグを付け、いかにもクリスな表情で。
    若干すねたような猫背で、冷えた眼差し。キムと恋に落ちる前の、荒んだクリスのような。
    わあ…私の大好きな石井さんの眉間のシワだぁ…素敵(//_//)
    ドッグタッグにちゃんと一人ひとりのキャストの名前が彫ってあるなんて、いいですね。愛着が湧いて、臨場感も出そうですし。
    番号は軍隊での個人番号でしょうか。そして石井さん演じるGIがカトリックとは!
    なんだかとっても面白いものを見せていただいた気がします(*^O^*)
    こういう情報が書いてあるということは、嫌な話かもしれませんが、戦死して身元確認ができない状態の時に、これが身分証明書のようになるのでしょうね。
    でも残念なのは、お名前に「I」が一つ足りないこと…(^^;)
    ISHIIもISHIも発音はほぼ同じなので、“Never mind!”ということでしょうか(笑)。。。
    「役者は真実以上にリアルに演じることができる」というお言葉や、
    分析されたクリスの心理を教えていただいて今更ながら気付いたのですが、
    石井さんはクリスとして(またはGIやジョンとして)生きることを通して
    ベトナム戦争を疑似体験したのと同じなんだなあと思いました。
    それは他の作品や役でもそうですが。憑依型の石井さんは特に。
    今でも石井さんの中に、クリスとしてベトナムの森を土埃にまみれて走ったことや、
    キムと引き裂かれたヘリの中の記憶が残っているのが、お言葉からも分かる気がします。
    クリスのこと、もっとお聞きしたいです。そしていつかジョンのこともお話して下さったら嬉しいです。
    石井さんのミス・サイゴンがますます拝見したくなりました。
    お休みのところ、興味深いお話をありがとうございました。

  3. Zoccha

    >まゆりーぬさま 椿姫ちゃう、蝶々夫人や。 まあ、クリスは悪いヤツじゃないけど、まあ若かったんでしょうね。 線が細いというか、戦争には向かない。 10代最後か20代初めの、ある一時期の純粋な直情というか、ある種の潔癖さの象徴。 どう考えても例えば19歳と17歳の恋愛で、28歳と25歳じゃ変。 結局いつも賛否両論分かれるのは、二人の恋愛ではなく、 このストーリーでなぜキムを自殺させる必要があったかで、 蝶々夫人の自殺も同様の議論が昔からある。 小さい子供を持った母親が自殺することに不快感を持つ人は多い。 気の毒というより腹立たしい人の方が多いのでは? あまりに唐突な自殺で、クリスにもピンカートンにも、非難の声はあまりない。 まあ、でも私はそれほどミュージカル自体に期待していないというか、 何かそれで感動したとか、感動しようなんて、全く思っていません。 オペラは完全に喉自慢大会なので、 ものすごい音波の振動に悩殺されることはあるし、 ストプレではさすがにめちゃくちゃ感動して、終わって立ち上がれないほどの作品はたまにある。 以前に書いたグローブ座こけらおとし頃の「アマデウス」モスクワ・マールイドラマ劇場は、 いまだにMY 語り草で、ロシア語上演だったがあまりの迫力に圧倒された。 しかし、ミュージカルは自分の中ではエンタメ分野で、 それほどのストーリーの整合性も期待していないし、 音楽のレベルも、芝居のレベルも、 自分の中では合格点を越えていさえすれば、それ以上はほとんど期待していない・・ 演ずる人は踊ったり、歌ったり、演技したりたいへんでしょうけど、 まあ、面白ければいいんじゃないのって思っている。 芸術性を求めるなら、古典とか比較的社会派の硬いネタのストプレか、 音楽は100%クラッシックに行っちゃいます。 ミュージカルに芸術性を求めたことはない・・ たとえブロードウェイやウェストエンドでオリジナルキャストのミュージカル観ても、 世界の一流どころのキャストでオペラの30本50本観てしまうと、 全然ミュージカルの記憶が残ってないんですが・・ もしや寝てたんじゃないか?というくらい記憶に残ってないです。 オペラだってつまんなかったのはどんどん忘れてます。 まあ、演ずる側のこだわりが明確なのは、 どの分野でも大歓迎! このお兄さん、やるじゃん!って思ったから、 たぶんこのブログにたどり着いたんでしょうから(笑) >yayaさん、私は7月4日だよ~ん。キム以外は同じキャスト。

  4. midori

    カズさん、こんばんは(*^_^*)
    大切な記憶を紐解いてくださってありがとうごさいます。
    こうやってカズさんがその当時の想いを語ってくれることで、
    観たことのないカズさんのマリウスやクリスが形を成していくようです。
    そしてみなさんの書き込み。
    全然色あせてないですね。
    みなさんにとっても大切な記憶…
    時を経て語り合えるってすごいことだと思います。
    まだまだ未熟な私ですが、5年後10年後にみなさんと語り合えたら…と思っています。
    カズさん、またいろいろ教えてくださいね(#^.^#)

  5. touko

    kazuさん、こんばんは。
    クリスやマリウスへの想いを言葉にしてくださってありがとうございます。
    ちょっと胸がいっぱいで上手く言葉にできませんのでお礼だけ。

  6. 阿波っ子

    一孝さん☆
    こんばんは☆阿波っ子です。今仕事帰りで汽車の中でカキコミをしています。
    今日は、夜から雷様が鳴り始め雨が降り…止んだところです。
    雷様だだだだ大嫌い。
    ミスサイゴンで、ドッグタグ付けてたのは見ましたが。
    ちゃんと彫ってるんですね。
    私の視力では、オペラグラスを使っても見えへん…。
    久しぶりに、ミスサイゴンのロンドンキャスト盤を聴きましたが、やっぱりいい(‘▽’)♪♪
    キム役のリア・サロンガさんって、ディズニー映画「アラジン」のジャスミン役の歌声をされていますよね?
    アラジンは、私が一番好きな映画。(>∪<)
    それはおいといて(笑)
    ニュー・ミスサイゴンを見に行こうっと♪

  7. yaya

    エンタメエンジョイしてますか?
    そうね。マリ&クリを理解するにはちょっと時間がかかった。
    でも、ある日、なんの作為もない浩暉マリウスを観て
    (私がレミ観始めたころは、カズさんはバルジャンだったからね)
    (あれ?浩暉くんのこと棒のように軽いって言ったのカズさんだっけ?)
    腑に落ちたというかなんというか。
    ほとんどの主要人物が命を奪われていく中で
    マリウス(とコゼット)の存在が「まだ見ぬ未来」を照射するような・・・・・
    クリスは是非、シニアクリスで観たいですよ!
    ソニンちゃんとのコンビで観たい!!
    前に、某劇場の某お芝居の初日でカズさんにうっかり(笑)会い
    「来てると思った~」と言われたあの日(遠い目)
    では、次回7月1日にお会いしましょう!

  8. まゆりーぬ

    前から思ってたんですけど、クリスって、そんなヒドイですかねぇ。
    あんなに一途に愛しあって、お互いが掛け替えの無い存在で、でも時代に翻弄されて離れ離れになっちゃって。
    エレンと結婚したのは、1人では生きていけないくらい、心に傷を負ってしまったからですよね。
    キムにはタムがいたけど、クリスには心の支えが必要だったワケで。
    キムを忘れた事なんて無く。
    これはエレンにとっては辛いかもだけど、でもエレンはそんなこんなひっくるめて、苦しんでるクリスを包む愛だったんじゃないのかなぁ。
    あと、突飛な展開とか、外人視点なのは、サイゴンに限った事じゃないんで、そこまで違和感ないですね〜。
    しばしば議論の的になるキム自殺も、椿姫を元ネタにしてる以上、ある意味デフォルトだと思うのでございますよ。
    どこまで納得感を持たせられるのかは、まぁ重要なんですけど。
    とりあえず、一孝さん、じゃなかったクリスは、そんなヒドイ男じゃないと思うよ〜!!っていう主張でした(笑)

  9. luna

    こんばんは。
    クリスバージョンの素敵なお写真と、貴重なドッグタッグのお写真まで載せて下さって、ありがとうございました。
    ドッグタッグに、リアルにお名前等が書いてあったことを知り、大変驚きました。
    知っている方もいらっしゃると思うので、ここまで書いて良いのかわかりませんが・・・。
    ドッグタッグは、2枚のうちの1枚が戦死した時に身元証明になるもので、残された家族にとって、このタッグが遺品になることもあるくらい大切な物であるということ知っていました。だから、BWMLの時、石井さんが2枚組でタッグをつけていらっしゃるのを見て、クリスとして、ちゃんと意味があって身に着けているんじゃないかな?と思いました。
    私も、Why God Whyが心に響きます。
    “国の為に闘ったが、帰国したら白い目で見られた・・・”
    という歌詞があるように、クリスは、とても傷ついていたと思います。
    同じく、キムも戦争に巻き込まれ、家族も住む家も失い、キャバレーで働かなければならなくなり、とても傷ついていたと思います。
    そんな二人が、サイゴン陥落を目前とした、先の見えないような恐怖や不安でいっぱいの中で出逢い、お互いの中に希望を求めながら恋に落ちたのだと思います。
    >愛するキムを守れなかった自分の愚かさと向き合う毎日。
    サイゴン陥落のドタバタ米軍撤退の中、クリスは必至にキムを探したのだから、やれるだけのことはしたと思いますし、あのシーンで、クリスの誠意は伝わってきていたので、クリスに罪は無いと思います。
    葛藤役の多い石井さんは、役の抱える心の痛みを負ったり、代償を払いながら演じていらっしゃるんでしょうね。(特に、石井さんは憑依体質ですし・・・。)
    俳優さんは、色んな立場にある方の心の痛みがわかるようになるのかもしれませんね。
    身も心も削りながら、真摯に舞台と向き合っていらっしゃるんでしょうね。
    そうやって、いつも楽しませて下さって、本当にありがとうございます。感謝しています。
    石井さんが出演作品や演じた役について、どのように感じているのかをもっとお聞きしたいです。熱く語って欲しいです♪
    長文、大変失礼いたしました。

  10. pomme

    こんばんは!
    すっかり現実の世界に忙殺されておりますが
    こちらにお伺いすると石井さんのミュージカル談義にどっぷり浸れます。
    更新とお写真有難うございます。
    サイゴン。キムの立場から感情移入すると、クリスは一体なんなの?
    と思ってしまいますが、
    あの曲。Why God Whyは、心に響きます。
    楽しいお休みを満喫されますように。

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